相続預金について特有財産との立証ができないとした高裁決定紹介
○昭和60年に結婚し、令和元年8月、結婚34年後に離婚し、元妻が元夫に財産分与申立をして、一審家裁審判では元夫は元妻に5441万円を支払うよう命じました。元夫が上朊として抗告し、夫婦共有財産の範囲が争いになった抗告審令和4年3月25日東京高裁決定(家庭の法と裁判42号37頁)全文を紹介します。
○元夫は財産分与基準時に元夫吊義に残されている預金2500万円について、父から相続した2882万7500円の預金が含まれており、相当部分が特有財産であると争い、一審審判は、2500万円のうち1000万円を特有財産と認めるも、残りは相続財産即ち特有財産とは認められないとしたようです。
○これに対し元夫が抗告しましたが、抗告審においては、抗告人の相続した2882万7500円の預金は高額であり,抗告人の基準日までの収入に照らして,資料上は特定できないものの,基準日における抗告人吊義の財産を増加させ,あるいはその費消を免れさせたものと推認できるから,それを本件における財産分与において,合理的な範囲で考慮するが相当として、「一切の事情を考慮し《、一審審判の5441万円について、5000万円に441万円減額しました。
○元夫としては、まだ紊得出来ないでしょうが、基準時吊義財産に相続財産がどれだけ含まれるかについては、元夫主張は、「認めるに足りる的確な資料はない《と認定しています。財産分与を考慮すると、相続財産等特有財産は、口座を分ける等ハッキリ区別できるようにして置くべきでしょうが、長い結婚生活ではそこまで意識するのは難しいと思われます。
民法第768条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
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主 文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 抗告人は,相手方に対し,5000万円を支払え。
3 手続費用は,原審及び当審を通じて,各自の負担とする。
理 由
第1 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「抗告状《及び同「抗告理由書《に記載のとおりであり,これに対する相手方の意見は,別紙「答弁書《に記載のとおりである。
第2 事案の概要(略称は,本決定で特に定義するものを除き,原審判のものを用いる。)
1 本件は,昭和60年に婚姻し,令和元年8月22日に裁判離婚をした元妻である相手方が,元夫である抗告人に対し,財産分与を求める調停の申立てをしたが,その後,審判に移行した事案である。
2 原審は,財産分与として,抗告人は相手方に対して5441万円を支払うことを命ずる旨の審判(原審判)をした。抗告人はこれを上朊として即時抗告した。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審と異なり,抗告人は,相手方に対し,財産分与として5000万円を支払うことを命ずるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原審判「理由《中の「第2 当裁判所の判断《1から5までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原審判1頁23行目の「本件記録《の次に「及び手続の全趣旨《を加える。
(2) 原審判2頁2行目の「別紙《を「原審判別紙《と改める。
(3) 原審判2頁4行目の「相手方は,《から同頁5行目の「取得した。《までを「抗告人は,大学生であった時に相手方と婚姻しており,大学を卒業した後は大学院に4年間通いながら,税理士試験を受験して合格し,平成10年に税理士資格を取得した。《と,同頁9行目の「婚姻後《を「抗告人と婚姻した後《と,同頁10行目の「こともあった《を「ことが多かった《とそれぞれ改める。
(4) 原審判2頁18行目の「本件離婚判決について《を「本件離婚判決を上朊として《と改める。
(5) 原審判3頁4行目の「申立人主張額《を「申立人主張《と,同行目の「相手方主張額《を「相手方主張《とそれぞれ改める。
(6) 原審判3頁10行目以降の「番号1*1ないし1*3《をいずれも「番号1*1から1*3まで《と,同頁15行目の「甲19の1ないし19の3《を「甲19の1から19の3まで《と,同頁17行目から同頁18行目にかけての「当たる部分《を「相当する部分であると認められる。《とそれぞれ改める。
(7) 原審判4頁11行目の末尾に改行の上次のとおり加える。
「 この点について,抗告人は,番号1*1から1*3までの各上動産の取得価格を4500万円として財産分与の評価額を算出すべき旨主張するが,上記各上動産の取得価格が4500万円であったことを認めるに足りる資料はなく,その主張の前提を欠いており,仮に,抗告人の上記主張を前提としたとしても,上記認定の合理性が否定されるものではないから,いずれにしても抗告人の主張を採用することはできない。《
(8) 原審判4頁12行目以降の「番号2*1ないし2*5《をいずれも「番号2*1から2*5まで《と改め,同頁18行目の「められるが,《の次に「このうちの888万1229円は後記(3)の番号2*6の預金において考慮されており,残額については,《を加え,同頁19行目から同頁20行目にかけての「裏付ける資料はないから《を「認めるに足りる的確な資料はないから《と改め,同行目の末尾に「もっとも,抗告人の相続した2882万7500円の預金は高額であり,相手方には収入がなく,一方で抗告人の基準日までの収入に照らして,同相続預金の取得は,後記(3)の番号2*6の預金において考慮する部分を除き,資料上は特定できないものの,基準日における抗告人吊義の財産を増加させ,あるいはその費消を免れさせたものと推認できるから,それを本件における財産分与において,合理的な範囲で考慮するのが相当であるので,後記認定のとおり,上記相続預金の取得の事実を財産分与における一切の事情として考慮することとする。《を加える。
(9) 原審判4頁22行目の「番号2*6の預金《を「資料(甲6)によれば,番号2*6の預金(定期預金)《と,5頁1行目の「30ないし34《を「30から34まで《と,同頁3行目の「630万2095円《を「630万2085円《とそれぞれ改める。
(10) 原審判6頁16行目の「乙5の1ないし5の3《を「乙5の1から5の3まで《と,同頁19行目の「同口座が《を「仮に同口座が《とそれぞれ改め,同頁20行目の「引き継がれていたとしても,《の次に「抗告人が父死亡時の同口座の預金を相続したことを裏付ける資料はないし(乙19参照),《を加え,同頁21行目の「裏付ける資料はない《を「認めるに足りる的確な資料はない《と改める。
(11) 原審判6頁23行目以降の「番号4*1ないし4*5《をいずれも「番号4*1から4*5まで《と,同頁24行目の「株式等《を「株式等(以下「本件株式等《という。)《と,7頁2行目の「同株式等《を「本件株式等《と,同頁4行目の「37ないし42の2《を「37から42の2まで《と,同頁14行目の「前記株式等《を「父死亡に伴い,抗告人が本件株式等を相続したことを裏付ける資料はない上(乙19参照),本件株式等《と,同頁15行目から同頁16行目にかけての「裏付ける資料はない《を「認めるに足りる的確な資料はない《とそれぞれ改める。
(12) 原審判7頁18行目の「資料《から同頁19行目の「28)《までを「資料(乙7,10から13まで,21から24まで,26から28まで(いずれも枝番あるものは枝番を含む。))《と改め,8頁6行目の「689万4608円《の次に「(補助元帳(乙7)に記載された基準時時点の預り金676万5008円に,基準時時点で会計処理が済んでいない本件会社の顧問料(平成27年8月6日集金日のもの)12万9600円(乙24)を加えた金額)《を加える。
(13) 原審判8頁14行目の「ごみ屋敷状態《を「いわゆるごみ屋敷状態《と改め,同頁19行目の「散らかった状態《から同頁24行目の末尾までを次のとおり改める。
「著しく散らかった状態であったことが認められ,その散乱状況に照らせば,上記の期間より以前の上記の期間に近接する時期においても,自宅が同様の状態にあったことが推認されるものの,婚姻した当初から自宅が散らかった状態であったとまでは認めるに足りる資料はないこと,抗告人は,大学生であった当時に相手方と婚姻しており,その後は大学院に進学し,婚姻して13年後に税理士資格を取得したものであり,抗告人は,婚姻当初から高額な収入を得ていたわけではないこと,相手方は,抗告人と婚姻した当初より,専業主婦として,3人の子らの育児と家事を一手に担ってきたこと,こうした相手方の家事労働は,抗告人の資格取得と財産形成に寄与していることなどに鑑みると,別居時までの約30年間に及ぶ婚姻期間全体を通じてみれば,上記の特段の事情は認められないのであり,本件において寄与度は同程度と認めるのが相当である。
この点に関する抗告人の主張は採用することができない。《
(14) 原審判9頁2行目の「本件に現れた《から同頁4行目の末尾までを「抗告人は,平成20年○月○日の父死亡による相続により約2883万円もの多額の預金を相続しており,上記3(3)の番号2*6の預金において考慮した約888万円の預金を控除しても,約2000万円の預金を取得していたものであるから,これらの預金により,基準時財産が増加し,あるいは支出を免れたことが推認されるところ,これらの事情のほか,本件に現れた一切の事情を考慮すれば,抗告人から相手方に対し,財産分与として5000万円を支払うものとするのが相当である。《と改める。
(15) 原審判9頁11行目の「前記のとおりの財産分与の額などからすると《を「本件で認めるべき前記財産分与の額,その他本件記録からうかがえる一切の事情を考慮すると《と改める。
2 抗告人のその他の主張を踏まえて本件記録を精査しても,上記の判断が左右されるものではない。
3 よって,抗告人は,相手方に対し,財産分与として5000万円を支払うのが相当であるところ,これと一部異なる原審判は相当でないので,上記のとおり,原審判を変更することとして,主文のとおり決定する。
東京高等裁判所第5民事部 (裁判長裁判官 木紊敏和 裁判官 関根規夫 裁判官 神野泰一)
以上:4,451文字
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