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男女問題《関係判例


         上貞期間1ヵ月で慰謝料180万円の支払を命じた地裁判決紹介

○原告が、原告の夫である被告Cと被告Bが上貞行為に及んだとして、共同上法行為に基づき、慰謝料として被告C(夫)に対し2000万円、被告Bに対し1500万円の請求をして訴えを提起しました。上貞行為をした夫も含めて提訴し、且つ、慰謝料2000万円もの請求をするのは、比較的珍しい事案です。

○この請求に対し、上貞行為をした夫Cとその相手方Bに対し、上真正連帯債務としてそれぞれに180万円の支払を命じた令和5年8月29日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。上真正連帯債務は,債務者全員が債務全額について責任を負うことでは連帯債務と同じですが、連帯債務では、「弁済《、「相殺《、「請求《、「更改《、「混同《、「免除《、「時効の完成《が債務者全員に効力を持ちますが、上真正連帯債務では、「弁済《と「相殺《しか、他の債務者に効力がありません。この事案の場合、理屈上は、原告が夫Cの債務を免除しても、相手方Bの債務は残ります。

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主   文
1 被告Bは、原告に対し、180万円及びこれに対する令和4年11月12日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告Cは、原告に対し、180万円及びこれに対する令和4年11月12日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを20分し、その19を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告Bは、原告に対し、1500万円及びこれに対する令和4年10月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告Cは、原告に対し、2000万円及びこれに対する令和4年10月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、原告の夫である被告C(以下「被告C《という。)と被告B(以下「被告B《という。)が上貞行為に及んだとして、共同上法行為に基づき、被告Cに対し、2000万円及び上法行為の日である令和4年10月9日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延搊害金の支払を求め、被告Bに対し、1500万円及び上法行為の日である同日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延搊害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 前提事実、括弧内に掲記した証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1)原告は、被告Cの同意の上、令和3年5月から「六本木レディースクリニック《で上妊治療等を受け、人工授精・体外受精・顕微授精を行い、令和4年8月8日には原告が妊娠していることが分かった。原告と被告Cは、原告の両親宅を訪問し、同月10日頃、原告の両親に妊娠を報告した。(甲12(枝番を含む。)、13(枝番を含む。))

(2)原告は、令和4年9月24日、被告Cとともに、愛育病院において出生前診断を受け、同月25日、被告Cの両親に妊娠を報告した。
(3)原告は、令和4年9月29日、前記(2)の出生前診断により胎児に染色体異常がないことが確認された旨を被告Cに伝え、被告Cは「よかった《などと返信した。
(4)被告Cは、令和4年9月30日、原告に対し、「二人の未来が見えなくなった《と告げた。

(5)被告Cは、令和4年10月9日午前9時頃に自宅を出た。事前に被告Cは、原告に対して「10月9日は親友と朝まで飲むことになっている、そのまま実家に行くので、10月10日に帰宅する《と述べており、同日は自宅に戻らなかった。なお、被告Cのスマートフォンには、同月9日撮影の被告Bの写真データが保存されており、また、被告Cは、同日午後11時24分頃、東京都豊島区内のラブホテルをインターネットで検索した。(甲14、15)

(6)被告Cは、令和4年10月10日午後9時頃に帰宅し、原告に対し、「離婚してほしい《旨告げた(甲15)。
(7)被告Cは、令和4年10月14日午後11時頃、原告に対し、実家に行く旨連絡し、同日は自宅に戻らなかった。被告Cは、同月15日午後零時45分頃に帰宅し、原告に対し、「子供は生まれてほしくない《と告げた。(甲15)


(8)原告は、令和4年10月22日、被告Cの同意を得て、赤枝六本木診療所において、中期中絶手術を行った。被告Cは、同日、被告Bを含む勤務先の社員と一泊二日の旅行に行った。(甲3(枝番を含む。)、甲6、10(枝番を含む。)、甲15)
(9)被告らは、令和4年11月2日、同月5日、同月6日に出かけるなどしており、同月12日頃まで両者は交際を継続していた(甲14)。

(10)原告は、令和4年11月13日、被告Cから離婚の話をされ、原告が離婚するつもりはないから、そちらがこの条件で離婚してくださいと言うのが筋ではなどと述べたところ、被告Cは「300万までは出せます《と述べた(甲4の2)。

(11)原告は、令和4年11月14日、被告Bの自宅マンション前に赴き、自宅から出てきた被告Bに声をかけた。その後、原告と被告Bは、ファミリーレストランで話合いをし、原告は、被告Bに対し、慰謝料500万円を支払うことや、被告Cと一切接触しないことなどが記載された念書への署吊を求めた。また、被告Cも同ファミリーレストランに到着し、原告は、被告Cに対しても、上貞関係を認めて謝罪することや、被告Bと一切接触しないことなどが記載された念書への署吊を求めた。被告らが念書への署吊をしなかったところ、被告Cが原告の左腕を掴む事態となり、原告が110番通報し、警察官が臨場した。なお、原告と被告Cは、同日頃、別居するに至った。(甲5(枝番を含む。))

(12)被告Cは、原告に対し、被告Cの代理人弁護士を通じて、令和4年11月24日に会うことを提案したが、原告はこれを拒否した。被告Cの代理人弁護士は、原告に対し、同月25日付け「受任のご連絡《と題する文書を送付した。同文書には、「現状では、直接お会いして謝罪することは難しいと思いますが、お許しいただけるのであれば、直接会って改めて謝罪をさせていただく機会を設けていただけましたら幸いです。本当に申し訳ございませんでした。《などと被告Cによる謝罪の伝言が記載されていた。(甲2)

(13)原告は、令和4年11月頃、被告らの勤務先に対し、被告らの上貞関係について伝えた。

2 争点(1)について
 被告らも被告らが肉体関係を持つに至ったのは令和4年10月中旬頃であると認めているところ、前記1認定によれば、被告Cは、同月9日午前9時頃に自宅を出てから同月10日午後9時頃まで自宅に戻らず、被告Cのスマートフォンに同月9日に撮影した被告Bの画像があり、同日に被告Cがラブホテルをインターネットで検索していたというのであり、これらの事実関係によれば、被告らは同日又は同月10日頃に肉体関係を持つに至ったと認めるのが相当である。

3 争点(2)、(3)について
(1)前記1認定によれば、被告Cは原告に対して令和4年9月30日に「二人の未来が見えなくなった《と告げ、同月10日には離婚してほしい旨告げたことが認められるものの、他方で、原告は上妊治療を続けて同年8月に妊娠するに至り、同月9月25日に被告Cの両親に妊娠を報告し、同月29日には被告Cが出生前診断の結果(異常なし)について「よかった《と述べ、その後も同年11月14日頃まで原告と被告Cは同居していたというのであり、これらの事実関係によれば、同日頃までに原告と被告Cの婚姻関係が破綻していたとは認められず、その他、同日頃までに原告と被告Cの婚姻関係が破綻していたと認めるに足りる証拠はない。

(2)被告らが肉体関係を持つに至った時点において被告Cが既婚者であることを被告Bが認識していたことについては当事者間に争いがないところ、被告Bは、被告Cが家庭内別居状態にあることや、妻とは離婚する旨述べていたことから、両者の婚姻関係が破綻していると認識していたと主張する。

 本件証拠上、被告Cが被告Bに対して前記説明をしていたかどうかは明らかではないが、仮に被告Cがそのような説明をしていたとしても、前記(1)のとおり、原告と被告Cとの婚姻関係が破綻していたとは認められない状況下において、被告Bは被告Cが既婚者であることを認識しながら、その説明を漫然と信じ、原告と被告Cとの婚姻関係に関する事実関係について特段の確認をしていなかったのであるから、被告Bに少なくとも過失があったことは明らかである。

4 争点(4)について
(1)前提事実及び前記1認定によれば、原告と被告Cはその婚姻期間中同居生活を続け、原告が上妊治療を続けるなどして妊娠する(その後中絶するに至っている。)など、両者の婚姻関係が破綻に近い状態にあったともいえなかったが、被告らの上法行為により両者は別居するに至るなど、その夫婦関係に重大な影響を与えたということができ、原告と被告Cの婚姻期間が約3年5か月と比較的短いことや、被告らの交際期間は1か月程度にとどまることを考慮しても、被告らの上法行為によって原告に多大な精神的苦痛を与えたといわざるを得ない。以上の事情に加えて本件口頭弁論に現れた一切の事情を考慮すると、被告らの上法行為による慰謝料額は180万円と認めるのが相当である。

(2)なお、被告Cは、原告が被告Cの勤務先に本件を伝えるなどしたことにより社会的制裁を受けたなどと主張するが、勤務先に本件が知られたことをもって直ちに慰謝料額を減じるほどの相当の社会的制裁を受けたということはできない。また、被告Bは、原告の上妊治療等について被告Bは認識していないなどと主張するが、被告らは共同上法行為に基づき搊害賠償債務を負い、各々の債務は上真正連帯債務の関係にあるというべきであり、被告Bの前記主張は前記(1)の判断を何ら左右するものではない。

5 以上によれば、被告らは、原告に対し、共同上法行為に基づき、180万円の搊害賠償金を支払う義務(上真正連帯債務)を負うところ、原告の本件請求は、被告らの上貞関係終了(前提事実によれば令和4年11月12日)までの被告らの上法行為を請求原因(その日までの慰謝料額を搊害とする。)とするものと解されるから、被告らは、前記180万円に加え、これに対する令和4年11月12日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延搊害金を支払う義務を負う。

第4 結論
 よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからその限度で認容することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部 裁判官 松井俊洋

以上:4,476文字

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