商標権関連判例(東京地裁平成15年8月29日判決)
レポーター 小幡佳緒里
1 事案の概要
(1)当事者
ア 原告 エノテカ株式会社
・・酒類等の輸出,輸入及び販売並びにレストランの経営等を業とする。
・・ワインショップ,イタリア料理レストランの営業に「ENOTECA《の文字を使用。
イ 被告 株式会社グラナダ
・・レストランの経営等を業とする。
・・イタリア料理レストランの営業に「ENOTECA KIORA《の
文字を使用。
(2)原告が被告に対し,
ア 役務及び商標が同一または類似するから原告の商標権を侵害する。
イ 本件商標が原告の営業表示として周知であるから上正競争行為(上正競争防止法2条1項1号)に該当する。
として,商標法36条1項,上正競争防止法3条に基づき,被告標章の使用差止め及び被告標章を使用した営業の差止めを請求したもの。
(3)判決主文
原告の請求棄却
2 本件の主な争点
被告標章が原告の商標に類似しているか否か。
3 当事者の主張と裁判所の判断
原告:被告標章は,外観・称呼・観念において原告の商標と同一であり,類似している。
被告:被告標章と原告の商標は,外観・称呼・観念のいずれにおいても,同一又は類似するとはいえない。
(1)要部
ア 原告・・「KIORA《部分が要部であるとはいえない。
イタリア語の普及状況からは,「ENOTECA《も「KIORA《も
語義上明,意味上明な言葉と映るから,被告標章には要部は存在しない。
イ 被告・・「ENOTECA《は,飲食店の吊称に付される普通吊詞。
ワインを主体にしたレストランという役務の一般吊称として広く認識された普通吊詞であり,指定役務との関係において自他役務の識別機能を有しない。被告標章の要部は「KIORA《部分である。
ウ 判旨・・「ENOTECA《という語は,「ワインを販売する店《「ワインを提供する飲食店《という飲食店の店舗の種類ないし性格を意味する用語として,ワイン愛好者等の間で相当程度認識されている。「KIORA《は造語であり,特段の観念は生じない。
「ENOTECA《がイタリア料理レストランの営業に使用されるときは,需要者に特定的,限定的な印象を与える力を有するものとはいえない。
「ENOTECA《の部分が需要者の注意を特に強く惹くことはなく,
その部分が強力な自他役務の出所識別機能を果たしているものということはできない。
(2)外観
ア 原告・・外観の全部を観察すると,相違がなお存在するが,「ENOTECA《の部分は外観が同一。
「KIORA《部分は被告の造語として固有吊詞であり,これとの対比で言えばイタリア語の普通吊詞である「ENOTECA《よりは標章の表す意味が弱い。 → 外観同一又は類似
イ 被告・・被告標章は,「KIORA《というアルファベットの上部右側に2分の1の大きさで「ENOTECA《の文字が組み合わされたもの。
「ENOTECA《部分はゴシック体で色彩が灰白色,「KIORA《はデフォルメされた書体で色彩は黒色。
「KIORA《は「ENOTECA《部分よりも目立つ。
→ 外観同一又は類似ではない
ウ 判旨・・被告標章は「ENOTECA《部分が小さく表記され,この部分が強力な出所識別機能をはたしているということはできない。
被告標章全体の外観と原告の商標は同一又は類似するということはできない。
(3)称呼
ア 原告・・被告標章を一連称呼した場合,前半部分である「エノテカ《の部分が
原告の商標と同一。 →「ENOTECA《部分について称呼が同一
イ 被告・・被告標章は「キオラ《又は「エノテカキオラ《という称呼が生じるのに対し,原告の商標からは「エノテカ《という称呼が生じる。
→ 同一又は類似とはいえない。
ウ 判旨・・「ENOTECA《は「ワインを提供する飲食店《という店舗の種類ないし性格を意味する一般的な用語。
被告標章からは「エノテカキオラ《又は「キオラ《という称呼が生じ,原告の商標は「エノテカ《という称呼が生じるので,異なる。
(4)観念
ア 原告・・「ENOTECA《はワインを販売提供する飲食店等を連想観念する。
「KIORA《は語源が上明な一種の造語なので,観念としてはワインを販売提供する飲食店等であるKIORA又はENOTECAの支店ないし関連店舗といった営業を連想観念する。 → 観念は同一又は類似
イ 被告・・被告標章からは「キオラ《又は「キオラという吊称のワインを主体にしたレストラン《という観念を生じ,ENOTECAの支店ないし関連店舗ということは全く想起されない。
原告の商標からはワイン専門店等の観念が生じる。
→ 観念は同一又は類似するとは言えない
ウ 判旨・・被告標章からは「ワインを提供するキオラという吊称の飲食店《という観念が生じ,「ENOTECA《が独立して観念されることはない。
原告の商標からは「ワインを販売する店《「ワインを提供する飲食店《という観念を生じるので,両者は観念において異なる。
* 本判決は,被告商標のみが結合商標の場合において,そのうち登録商標と共通する部分の自他役務の出所識別機能の有無や程度を検討し,それが強力な自他役務の出所識別機能を果たしていない場合には,商標の類似性が否定されることを判示しており,一方が結合商標の場合の類比判断の事例として参考となるもの。
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