弁護士法違反顧問契約無効とした平成27年1月19日東京地裁判決全文紹介2
○「弁護士法違反顧問契約無効とした平成27年1月19日東京地裁判決全文紹介1《を続けます。
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第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) エレベーター保守管理業界は,大手メーカー系列の保守管理業者が90%以上のシェアを占める寡占業界であり,大手系列に属さない原告のような業者は,独立系業者といわれる。
原告は,他の独立系業者とともにエレベーター保守事業協同組合を設立し,以後,一月に一度の定例会を開催して情報交換・技術研修を行っていた。そして,保険代理業を営んでいた亡Y1は,20年以上前に賛助組合員として同組合に加入し,定例会などに顔を出して,機械保険や賠償責任保険,自動車保険を組合員である業者に斡旋したりしており,その中で,原告代表者とも話しをするようになった。(甲25)
(2) 平成21年12月初めころ,原告は,顧客であるb社から,保守点検の履行状況が杜撰であるとして,保守点検料の支払を拒絶され,保守点検契約を解除すると告げられるなどした別件紛争を抱えていた。
原告が組合員の一人にそのことを相談したところ,同組合員から,亡Y1がその種のトラブル解決に手を貸してくれるのではないかと教えられたことから,原告は,亡Y1に対し,別件紛争について相談することとなった。(甲25)
(3) 原告が亡Y1に相談すると,同人は,同じ組合員の青森県の業者が,d社の建物のエレベーター保守管理に関してd社とトラブルになった際,介入して解決した実績があるなどと説明し,別件紛争も解決できるとして,顧問契約の締結を提案した(甲25)。
そして,亡Y1は,平成21年12月9日付けの「顧問就任依頼書《(甲2)という文書を作成して原告に提示した。同文書には,前提事実(2)記載の本件顧問契約の内容が印字されていた。
原告は,同日,同文書に押印して本件顧問契約を締結し,亡Y1の請求に従って,翌10日,1か月分の顧問料として2万6250円を現金で支払い,さらに,同月11日,5か月分の顧問料として13万1250円の小切手を交付した(甲12,13)。
(4) 亡Y1は,原告に対し,平成22年1月13日現在の実績として,次のような記載のある文書を交付した(甲1。以下「本件PR文書《という。)。
・「当a研究所の『法律研究部門』と『経営顧問業部門』の成果の例です《
・「『証拠主義との法律解釈論が弁護士では上可能』な為a研究所以外での勝利は上可能な実例です《
・「当方顧問先企業は,d社とのエレベーター保守メンテ契約を合意解除後に,顧問弁護士から内容証明で請求をされました《
・「当方企業経営顧問業部門の『某社の顧問としての活動で,弁護士法上の代理・非弁行為では無い』ことをご理解ください《
・「d株式会社の顧問弁護士は,我が国最高レベルの(都道府県弁護士会会長経験者・最高裁判事・最高検検事・大学教授レベル)の弁護士:吊誉職で,一般弁護士とは別格的な存在です《
・「殆ど全ての弁護士は,法律解釈論の素人の為『証拠との法律解釈の紛争』は,示談以外では引き受けません《
・「d株式会社顧問弁護士が請求根拠とする上記1~3の提示資料が法律的証拠価値がないとの当方の主張に対しd社・顧問弁護士が,法律上(証拠主義)の反論を一切出来なかった事が,当方側の勝因です《
(5) 亡Y1は,別件紛争に関して,b社内のB宛てに送付する文書の文案を作成して原告に示し,原告は,平成22年1月25日,それを内容証明郵便(甲3)として,b社に送付した。
上記内容証明には,原告がb社内でB氏からエレベーター改修費用の一部負担を求められたことに対して,その内容・真意が理解できないとした上で,原告が費用を負担すべき法律上の根拠や,B氏が国土交通省へ通告すると述べた法的根拠等について釈明を求めるとともに,「裁判は民事・刑事を問わず全て『証拠主義』の観点を踏まえて行われ,証拠主義の観点からは『利益を主張の者は自ら証明すべし』との法律解釈で行われ,『証明とは証拠資料を指す』と法律上は解釈されていますから,B様の主張には,何をおいても先ず,B様ご自身の意志の発言としての文書のご提出が必要なのです,との,『法律上の利益を主張する者の義務《との観点からも,ご教示をお願いいたします《などといった文章が記載されている。
(6) さらに,亡Y1は,b社に対してエレベーター保守管理費用合計69万0900円の支払を求める文書の文案を作成して原告に示し,原告は,平成22年2月8日,それを内容証明郵便(甲4)として,b社に送付した。
(7) すると,平成22年2月22日,b社及びBの代理人弁護士から,原告宛てに,原告の行為が上法行為に該当する具体的事実と,協議の機会を設定することを希望する旨の通知書(甲5)が送付されたが,それを見た亡Y1は,支払督促の手続を進めるため,原告代表者を司法書士の下に連れて行き,平成22年3月26日,b社に対する支払督促の発付を得た(甲6)。
しかし,同年4月7日,b社は,督促異議を申し立て,東京簡易裁判所に訴訟係属後は,同年7月14日付けで反訴を提起するとともに東京地方裁判所への移送申立てを行った。
東京簡易裁判所は,東京地方裁判所への移送決定を行い,これに対する原告からの抗告も棄却され(なお,この抗告も亡Y1の指導によるものである。),事件が東京地方裁判所に係属した時点で,上記司法書士が辞任し,本件訴訟における原告代理人弁護士らがこれを受任した。
結局,b社との間の別件紛争は,平成25年1月,東京地方裁判所において和解が成立することによって解決された。
(8) 亡Y1は,上記(4)から(7)の経緯の中で,原告に対し,次のとおり,本件顧問契約に基づく顧問料等の請求を行い,原告から金員を受領していた(なお,日付けはいずれも平成22年のものである。)。
ア 1月13日付け請求書(甲15の1)
① 年間顧問料の残金 15万円
② 平成21年12月23日の相談料 2万2500円
③ 平成21年12月24日の文書作成料2通分 4万円
④ 平成21年12月26日の相談料 1万5000円
⑤ 同日の文書作成料 2万5000円
原告は,1月22日,上記合計26万5125円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲15の2)。
イ 2月4日付け請求書(甲16の1)
① 1月21日の相談料 4万5000円
② 1月22日の相談料 1万5000円
③ 1月23日の相談料 1万5000円
④ 1月23日の内容証明作成料 5万円
⑤ 1月25日の相談料 5万2500円
⑥ 1月28日の相談料 2万2500円
原告は,2月23日,上記合計21万円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲16の2)。
ウ 3月18日付け請求書(甲17の1)
① 2月8日の相談料 2万2500円
② 同日の内容証明作成料 2万円
③ 2月23日の相談料 1万5000円
④ 2月25日の相談料 1万5000円
エ 3月18日付け請求書(甲17の2)
① 顧問付加料 150万円
原告は,3月23日,上記ウ及びエの合計157万6125円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲17の3)。
オ 4月8日付け請求書(甲18の1)
① 3月10日の相談料 3万円
② 同日の司法書士への支払督促依頼への同行手数料 1万円
③ 3月12日の相談料 1万5000円
④ 3月16日の相談料 1万5000円
⑤ 3月17日の相談料 4万5000円
⑥ 3月21日の相談料 1万5000円
原告は,4月23日,上記合計13万6500円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲18の2)。
カ 5月13日付け請求書(甲19の1)
① 4月27日の相談料 1万5000円
② 対外折衝料 2万5000円
キ 5月13日付け請求書(甲19の2)
① 改訂顧問契約に基づく平成22年3月から同年11月までの年間顧問料差額23万6250円
原告は,5月25日,上記合計27万8250円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲19の3)。
ク 6月8日付け請求書(甲20の1)
① 5月12日の相談料 3万円
② 5月14日の相談料 1万5000円
③ 5月18日の相談料 3万円
④ 同日の司法書士事務所への出張料 1万5000円
⑤ 5月20日の相談料 1万5000円
原告は,6月24日,上記合計11万0250円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲20の2)。
ケ 7月4日付け請求書(甲21の1)
① 6月18日の相談料 1万5000円
② 6月22日の相談料 1万5000円
③ 同日の司法書士への公判対応指示 3万5000円
④ 6月24日の相談料 2万2500円
⑤ B宛の内容証明作成料 10万円
⑥ 6月26日の相談料 3万7500円
⑦ 同日の司法書士への指導助言料 3万5000円
原告は,7月22日,上記合計27万3000円(税込み)から,被告がc社について株式会社東京商工リサーチを用いて調査した費用の立替分5万5713円(甲26の1ないし3)を控除した21万7287円を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲21の2)。
コ 8月8日付け請求書(甲22の1)
① 7月1日の相談料 1万5000円
② B宛の内容証明作成料 5万円
③ 7月2日の相談料 2万2500円
④ 同日の司法書士への指導助言料 3万5000円
⑤ 7月6日の相談料 1万5000円
⑥ 7月8日の相談料 2万2500円
⑦ 7月12日の相談料 3万円
⑧ 同日の司法書士への指導助言料 1万5000円
⑨ 7月15日の相談料 4万5000円
⑩ 同日の蒲田警察署への同行料 3万円
⑪ 7月16日の相談料 1万5000円
⑫ 7月19日の相談料 2万2500円
⑬ 7月20日の相談料 1万5000円
⑭ 同日の司法書士への指導助言料 1万5000円
⑮ 7月27日の相談料 1万5000円
⑯ 7月31日の相談料 2万2500円
⑰ 同日の被害届の作成料 7万5000円
⑱ 同日の反訴状作成料 7万5000円
原告は,8月24日,上記合計56万1750円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲22の2)。
サ 9月3日付け請求書(甲23の1)
① 8月4日の相談料 2万2500円
② 同日の司法書士への同行手数料 1万5000円
③ 同日の相談料 1万5000円
④ 8月11日の相談料 3万7500円
⑤ 同日の蒲田警察署への同行料 7万5000円
⑥ 8月13日の相談料 1万5000円
⑦ 8月14日の相談料 1万5000円
⑧ 東京簡裁への答弁書作成料 7万5000円
⑨ 8月21日の相談料 1万5000円
⑩ 東京簡裁への答弁書作成料(2回目) 15万円
⑪ 8月24日の相談料 1万5000円
⑫ 東京簡裁書記官との打合せ費用 1万5000円
⑬ 8月29日の相談料 2万2500円
⑭ 8月30日の相談料 1万5000円
⑮ 東京簡裁書記官との打合せ費用 1万5000円
原告は,9月21日,上記合計52万7625円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲23の2)。
シ 10月7日付け請求書(甲24の1)
① 東京簡裁抗告申立書作成料 25万円
② 9月2日の相談料 1万5000円
③ 東京簡裁抗告申立書補正作成料 3万2500円
④ 9月10日の相談料 2万円
⑤ 東京地検告訴状作成料 25万円
⑥ 9月14日の相談料 3万5000円
原告は,10月25日,上記合計63万2625円(税込み)を亡Y1の銀行口座に振り込んだ(甲24の2)。
2 上記認定事実によれば,亡Y1は,別件紛争を抱えて困惑する原告に対して,自己が,法的紛争の解決能力において,あたかも弁護士以上の能力を有しているかのように振る舞って本件顧問契約を締結させ,同契約に基づき,顧問料や個別の相談料・文書作成料等として,弁護士報酬にも匹敵する高額の金員を支払わせていたことが認められる。
そして,その事務の内容としても,法律事件に発展していた別件紛争に関する相談・打合せ,司法書士への指導助言,内容証明作成,反訴状・答弁書・抗告申立書等の作成などを行っていたのであるから,これらの行為は,弁護士法72条本文にいう「報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件(中略)その他一般の法律事件に関して(中略)代理,(中略)その他の法律事務を取り扱《うことに当たるものというべきである。また,本件PR文書の内容からすれば,亡Y1は,自らこうした法律事務の取扱いを業としていることを吹聴していたことが窺え,本件のように長期間の多数回にわたる相談料等の徴収や,その取り決めとしての本件顧問契約を締結するといった態様から見ても,亡Y1がそれを「業と《して行っていたことも優に認められる。
したがって,本件顧問契約は,弁護士法72条本文に違反する事項を目的とする契約として民法90条により無効であり,亡Y1が同契約に基づいて受領した金員は,全て上当利得となるというべきである。
なお,本件PR文書には,自己の活動が非弁行為ではないなどという弁解がわざわざ記載してあるから,亡Y1は,弁護士法72条本文の存在とその内容を知っていたものと推認され,上記上当利得につき悪意ということができる。
これに対し,被告は,亡Y1の扱っていた事務が,一部は法律事務であることは認めるものの,全部ではなく,むしろその多くは事務員としての雑事であったなどと主張するが,別件紛争の解決という本件顧問契約締結の目的と同契約の内容からすれば,その料金発生の根拠となる行為は法律事務としての活動であることが前提とされていたと解され,少なくとも,亡Y1の活動のうち,本件顧問契約に基づき料金を請求している活動については,全体として法律事務に該当するというべきである。したがって,上当利得の成立範囲を限定しようとする被告の主張は採用できない。
3 よって,原告の請求には理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 矢﨑豊)
以上:5,857文字
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