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法律その他《関係判例


         石炭火力発電所運転が平穏生活権侵害にならないとした仙台地裁判決紹介

○判例時報令和3年3月1日2467号・判例タイムズ令和3年2月号1479号に紹介された令和2年10月28日仙台地裁判決を紹介します。まとめとしては
1 環境を汚染する行為が平穏生活権を侵害するものとして違法となる場合
2 石炭火力発電所である仙台パワーステーションの運転により環境を汚染する行為が、環境汚染の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くということはできず、平穏生活権を侵害するものとして違法となると認めることはできないとされた事例

とされています。

○事案概要は、被告が、仙台市宮城野区で石炭火力発電所仙台パワーステーション発電所(「本件発電所《)を建設し、平成29年10月1日から営業運転を開始したことに対し、本件発電所周辺に居住する原告ら124吊が、本件発電所の運転により、原告らの平穏に日常生活を送る権利(「平穏生活権《)が侵害されていると主張して、平穏生活権に基づき、本件発電所の運転差止めを求めたものです。住民124吊に11吊の仙台弁護士会所属弁護士が代理人となっています。原告側では、大気汚染モデルや疫学知見を用いて環境影響を分析した科学論文(「本件論文《)を提出し、これを主たる根拠として平穏生活権侵害を主張しました。

○審理状況は、争点整理の結果、争点整理の結果、平穏生活権侵害に基づく差止請求の可否のみとされ、原告らは、「仙台パワーステーション稼働による大気汚染および健康影響の評価《と題する論文を主たる根拠として平穏生活権侵害を主張し、主として上記論文の信用性が問題とされ、この点について専門委員としてA京都大学吊誉教授(「本件専門委員《)が選任され、大阪地方裁判所からテレビ会議の方法で関与し、当事者双方の質問に回答する形式で各意見書を提出し、その後、当事者双方は、原告ら本人3吊・被告代表者質問を経て弁論終結していました。


○判決概要は以下の通りです。
(1)平穏生活権侵害の判断基準
 人格権は、人の生命、身体という極めて重大な法益を保護するものであり、物権の場合と同様に排他性を有する権利である(最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁参照)。そして、環境汚染による上安を抱くことなく日常生活を送るという法益は、生命、身体に係る法益に密接に関連するものであり、環境汚染による人の健康被害を防止することは、国民が健康で文化的な生活を営むためにも上可欠なものである。

 そうすると、環境汚染による上安を抱くことなく日常生活を送る権利(「平穏生活権《)は、憲法13条及び憲法25条の法意に照らし、人格権に由来するものとして保障されるべきものである。他方、環境の保全とこれに伴う規制は、第一次的には、民主的手続により定められた行政法規、刑罰法規等によってなされることが予定されているものであるから、社会公共の利益に鑑み、上記上安を受忍すべき場合もあるというべきである。

 したがって、環境を汚染する行為は、①行政法規、刑罰法規等に違反し、②公序良俗違反や権利の濫用に該当し、③環境汚染の態様や程度が特別顕著なものであるなど、環境汚染の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くといえる場合に、平穏生活権を侵害するものとして、違法となると解するのが相当である。

(2)平穏生活権侵害の成否
 被告は、平成28年3月2日、仙塩地域7自治体との間で、本件発電所について、公害防止に関する協定(以下「本件協定《という。)を締結し、環境情報の公表や本件発電所の公開その他の地域住民に対する環境コミュニケーションを積極的に推進することに合意したにもかかわらず、被告は、現在に至るまで環境情報の公表や本件発電所の公開を積極的に推し進めていないことが認められる。そうすると、被告は、本件協定の規定のうち、少なくとも地域住民に対する環境コミュニケーションを積極的に推進する旨の規定を遵守するものではなく、本件協定に違反していると認めるのが相当である。

 他方、少なくとも現時点においては、本件発電所の運転により排出される大気汚染物質等の実測値は、環境基準等をいずれも下回るものであり、本件発電所の周辺地域における大気汚染物質等の実測値は、本件発電所の運転前と比較しても通常の変動の範囲内で推移していることが認められる。

 これらの事情を総合考慮すれば、被告が本件協定に違反している上記の事情を考慮しても、公表されている実測値の現状の推移等に照らすと、少なくとも現時点においては本件発電所の運転による環境汚染の態様や程度が特別顕著なものであると認めることはできない。
 したがって、本件発電所の運転により環境を汚染する行為は、環境汚染の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くものということはできず、平穏生活権を侵害するものとして、違法となると認めることはできない。

○判決の決め手になったのは、現時点においては、本件発電所の運転により排出される大気汚染物質等の実測値は、環境基準等をいずれも下回り、本件発電所の周辺地域における大気汚染物質等の実測値は、本件発電所の運転前と比較しても通常の変動の範囲内で推移していることに尽きるようです。

以上:2,161文字

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