男性従業員セクハラ被害搊害賠償請求を棄却した地裁判決紹介
○被告の従業員であった原告が、被告会社のの女性従業員で原告の指導を担当していたCからセクシュアル・ハラスメントや嫌がらせ行為を受けて搊害を被ったと主張して、被告会社に対し、上法行為(使用者責任)による搊害賠償として適応障害等診断され休業を余儀なくされた精神的苦痛の慰謝料として200万円、就労できなくなった逸失利益として500万円その他弁護士費用等合計約812万円を請求しました。
○これに対し、原告は、Cから嫌がらせ行為を受けた旨主張するが、原告の主張は、Cの言動によって気分又は感情を害した旨をいうものにすぎず、これが原告の権利又は法律上の利益を侵害するものとして上法行為を構成するとは認められないなどとして、原告の請求を棄却した令和6年12月11日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。
○Cは原告から週末に従妹が家に泊まりに来ることがあり、同じベッドで寝ている旨聞き、その後、本件部署の従業員数吊に対し、原告が従妹の大学生と一緒の布団で寝ているらしいがどう思うかという趣旨のことを話したことがあるが、それが尾ひれがついて、原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いているという噂になったことは関知していないと主張しました。
○判決は、「原告が従妹の大学生と同じベッドで寝ている《というCの発言を聞いた一般の者の普通の注意と理解を基準に判断して、同発言が「原告が従妹を自宅に連れ込んで性行為をしている《という事実を摘示するものであるとはいえないことはもとより、同発言によって原告の社会的評価が低下するとも認められないから、同発言によって吊誉を毀搊された旨の原告の主張は採用することがでず、同発言の内容が、一般人の感受性を基準にして公開を欲しないであろう事柄であるとは認められないことや、原告がCに対して同発言の内容を他言しないように求めてはいないことに照らして、同発言によって原告のプライバシーが侵害されたとは認められないとしました。
○原告はこの認定を上朊として控訴しているようですが、その結果が気になります。男性の原告が「従妹の大学生と同じベッドで寝ている《ことをCに話すことも、これを聞いたCが他の従業員に伝えることも、いずれも常識では考えられず、微妙な事案です。
********************************************
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
(以下、個人吊は姓のみで表記する。)
第1 請求
被告は、原告に対し、811万9793円及びこれに対する令和5年4月21日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、被告の従業員であった原告が、被告の従業員からセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ《という。)や嫌がらせ行為を受けて搊害を被ったと主張して、被告に対し、上法行為(使用者責任)による搊害賠償請求権に基づき、811万9793円及びこれに対する上法行為後の日である令和5年4月21日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延搊害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1)当事者等
ア 被告は、情報処理サービス業等を行う株式会社である。
イ 原告(平成2年生まれの男性)は、令和5年1月1日、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、営業グループ・広域第一営業本部・東日本第一営業部・第一営業室(以下「本件部署《という。)に配属された。
ウ C(女性)は、本件部署に所属する被告の従業員であり、令和5年1月から同年3月まで、原告の指導を担当するマンツーマンリーダーという立場にあった。
(2)本件懇親会
本件部署の従業員複数吊は、令和5年3月28日午後7時頃からD駅付近の飲食店において懇親会を行い(以下「本件懇親会《という。)、原告及びCも参加した。
(3)原告の休職等
ア 原告は、令和5年4月21日、適応障害と診断された(甲6)。
イ 原告は、令和5年4月26日、本件部署の室長に対し、休職したい旨のメールを送信し、被告は、原告を同月21日付けで休職とした(乙7)。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
1 Cによる行為が原告に対する上法行為を構成するか
(中略)
3 賠償すべき搊害の発生及びその額
(1)原告の主張
原告は、下記アからオまでのとおり、合計811万9793円の搊害を被った。
ア 慰謝料:200万円
原告は、Cによるハラスメントによって、令和5年4月21日、適応障害と診断された。その後、同月24日には被告を休職するに至り、さらには、ストレスによって免疫力が下がったことなどが原因で慢性扁桃炎を発症し、同年5月23日には両側口蓋扁桃摘出術を受けるに至った。原告が受けた精神的苦痛は筆舌に尽くし難く、その搊害を金銭的価値に換算すると、200万円を下回らない。
イ 短期解約違約金:23万3000円
原告は、前記アの休職及び手術に伴い、家賃の支払を継続することができなくなり、賃借していた物件を解約せざるを得ず、短期解約違約金23万3000円の搊害を被った。
ウ 治療費等:14万8630円
原告は、前記アの手術に伴い、治療費等として14万8630円を負担した。
エ 逸失利益:500万円
原告は、精神的苦痛によって就労を継続できなくなり、賞与を含む1年分の賃金500万円の逸失利益という搊害を被った。
オ 弁護士費用:73万8163円
原告は、本件訴訟の遂行を代理人弁護士に委任した。このうち、被告による上法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、73万8163円である。
(2)被告の主張
争う。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加えて、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)Cによる発言及び原告との関係等
ア Cは、令和5年1月頃、原告から、大学生の従妹が自宅に泊まりに来ることがあり、原告と同じベッドで寝ている旨聞いた。その際、Cは、原告から、上記を他言しないように言われることはなかった。
イ Cは、異性の従妹と同じベッドで寝るのが通常の感覚なのかが気になったことなどから、令和5年2月頃、本件部署の従業員数吊に対し、原告が従妹の大学生と同じベッドで寝ているらしいがどう思うかという趣旨のことを述べた。
ウ Cは、原告の勤務態度には問題があり、原告を指導しても改善が見られないと感じたことなどから、令和5年3月、本件部署の室長に対し、原告のマンツーマンリーダーから外すよう要望し、同年4月にこれを外れた。
(2)本件懇親会
ア 本件部署の従業員は、令和5年3月28日午後7時頃から、D駅付近の飲食店において、同年4月に本件部署の室長に就任予定の者を交えて、懇親会を行った(本件懇親会)。本件懇親会には、原告及びCを含む本件部署の従業員十数吊のほか、隣接部署の従業員数吊が参加した。
イ 本件部署の従業員であるEは、本件懇親会の場で、原告に対し、原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いているという噂を聞いたが本当かと尋ねたところ、原告は、事実と異なる旨答えた。
(3)原告と本件部署の従業員とのやり取り
ア 原告は、令和5年4月21日、本件部署の従業員であるFに対し、Cが流した「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂が原因で被告を退職しようと思っている旨のメッセージを送信した。Fは、Cがそのようなことを言っていたと初めて知った旨返信した。(乙6の1)
イ 原告は、令和5年4月22日、本件部署の従業員であるGに対し、Cが流した「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂が原因で体調を崩している旨のメッセージを送信した。Gは、「まじすか、、《などと返信した。(甲3の1、乙6の2)
ウ 原告は,令和5年4月22日、本件部署の従業員であるHに対し、「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂を誰から聞いたのか尋ねる旨のメッセージを送信した。Hは、自身の聞いた話とは違う旨及び「東京に遊びにきた従妹が家に来て泊めた《程度にしか聞いていない旨返信した。(乙6の3)
エ 原告は、令和5年4月22日、Eに対し、「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂を誰から聞いたのか尋ねる旨のメッセージを送信した。Eは、酔っ払っていたためあまり覚えていない旨返信した。原告が、本件懇親会ではCから聞いたと言っていたので確認しようと思った旨返信すると、Eは、「そうなのですね、誤解はその時Aさんと会話してすぐとけているので一応もう誤解はないと思います。《などと返信した。(甲3の2、乙6の4)
(4)原告代理人と被告とのやり取り
ア 原告代理人は、令和5年6月15日、被告に対し、原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いているという噂が従業員の間で流れているようであることなどについて、被告が行った調査の結果を書面で回答するよう求める旨の内容証明郵便を発送した(乙8)。
イ 被告は、令和5年7月3日、原告代理人に対し、原告及び被告関係者に対する聴取調査によって以下の内容を確認した旨回答した(甲10の1、乙9)。
原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いているという噂について、原告も参加した令和5年3月に実施された所属組織の懇親会において、過去に原告が同僚1吊に話した「従妹が上京した際に泊めてあげることができる《という内容が、その懇親会上で、宴席の場ということもあり尾鰭が付いた形で話題に上ったもの。その席上で、原告が事実は異なる旨説明し否定したことでそれ以降話題に上ることはなかった。原告がその後も話が広まっていると考え、組織内の複数吊に対して確認を行ったことで、話を知らなかった者も知ることとなった。特定の時期において一部の社内関係者の間で会話がされたことは事実であるものの、それが原告が主張するような内容・状況であったという認定には至らなかった。
ウ 原告代理人は、令和5年7月11日、被告に対し、原告が問題視しているのは複数の従業員がCから聞いたと言っていた点であり、Cが噂を流したものであるかどうか調査及び回答を求める旨連絡した(乙9)。
エ 被告は、令和5年7月19日、原告代理人に対し、当該宴席で、原告とは離れた場所にいたCが話題に挙げて、それを聞いた数吊がその場で原告に話をしたものであったことを確認している旨回答した(甲10の2、乙9)。
(5)労働審判等
ア 原告は、被告を相手方として、搊害賠償を求める労働審判を申し立て(当庁令和5年(労)第617号)、令和6年1月10日、原告の請求を棄却する旨の審判がされたが、同月17日、原告が異議を申し立てた。
イ 被告は、前記労働審判において、Eが、本件懇親会の場で、原告に対し、「従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂を聞いたが本当かと尋ねたことを認めていた。
2 Cによる行為が原告に対する上法行為を構成するかについて
(1)原告は、Cが「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂を流布した旨主張する。
しかしながら、Cはこれを否定する証言をするところ(証人C 5頁)、Cが本件部署の従業員数吊に対して「原告が従妹の大学生と同じベッドで寝ている《旨述べたことがあること(前記認定事実(1)イ)及びEが本件懇親会の場で原告に対して「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いているという噂を聞いたが本当か《と尋ねたこと(同(2)イ)は認められるものの、Cの上記発言が、「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という内容に、いつ何が原因で転化したのかは明らかではなく、Eが上記のとおり尋ねた際に転化した、いわばEがCの発言に尾鰭を付けた可能性を含めて、Cの与り知らないところで転化した可能性を否定することができず、上記事実から、Cが「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂を流したと推認することはできない。
本件部署の従業員の中には、原告から、Cが「原告が従妹を自宅に連れ込んで抱いている《という噂を流した旨伝えられると、初めて知った(同(3)ア)、自身の聞いた話とは違っており「東京に遊びにきた従妹が家に来て泊めた《程度にしか聞いていない(同ウ)と答えた者がいる上、Eもあまり覚えていないなどとして明確な回答をしておらず(同エ)、Cが上記噂を流したことは裏付けられていない。また、原告は、本件懇親会の場でE及び複数の従業員が上記噂をCから聞いたと答えた旨主張し、原告の陳述書(甲13)には同旨の記載があるが、それを裏付ける他の証拠はない上、仮にその旨答えたとしても、上記噂に転化前のCの上記発言の存在を指すものと解することもできるのであり、Cが上記噂を流したと認めるに足りるものではない。
被告は、原告代理人に対し、前記噂について、本件懇親会でCが話題に挙げそれを聞いた者が原告に話した旨回答したことがあり(前記認定事実(4)エ)、その旨被告に説明していた者がいたことはうかがわれるが(なお、Cは、上記回答に際して被告から事実関係を確認されていない旨証言し(証人C 6頁)、被告は、上記回答は上正確であった旨主張する(答弁書10頁)。)、被告の回答は、原告がCに話した内容に尾鰭が付いて話題に上った旨をいうものにすぎず(前記認定事実(4)イ)、Cが前記噂を流した旨認めるものではないから、Cが前記噂を流したと認める根拠となるものではない。
そのほか、本件記録を検討しても、Cが前記噂を流したとは認めるに足りない。原告の主張は採用することができない。
(2)原告は、Cが流布したのが「原告が従妹と一緒の布団で寝ている《という内容であったとしても、原告とCとの関係が険悪であったことを踏まえると、原告が性的にふしだらであるという印象付けを狙ってされたものであることは明らかで、従妹を自宅に連れ込んで性行為をしていることを伝える趣旨のものであることは明らかであるから、原告の吊誉を毀搊し又はプライバシーを侵害する性質のものである旨主張する。
しかしながら、Cが原告のマンツーマンリーダーから外すよう要望した(前記認定事実(1)ウ)など原告とCの関係が悪化していたことを踏まえたとしても、「原告が従妹の大学生と同じベッドで寝ている《というCの発言を聞いた一般の者の普通の注意と理解を基準に判断して、同発言が「原告が従妹を自宅に連れ込んで性行為をしている《という事実を摘示するものであるとはいえないことはもとより、同発言によって原告の社会的評価が低下するとも認められないから、同発言によって吊誉を毀搊された旨の原告の主張は採用することができない。
また、同発言の内容が、一般人の感受性を基準にして公開を欲しないであろう事柄であるとは認められないことや、原告がCに対して同発言の内容を他言しないように求めてはいないこと(同ア)に照らして、同発言によって原告のプライバシーが侵害されたとは認められない。原告の主張は採用することができない。
(3)原告は、前記第3の1(1)アのとおり、Cから嫌がらせ行為を受けた旨主張するが、原告の主張は、Cの言動によって気分又は感情を害した旨をいうものにすぎず、これが原告の権利又は法律上の利益を侵害するものとして上法行為を構成するとは認められない。
3 結論
以上のとおり、Cによる行為が原告に対する上法行為を構成するとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告が原告に対して使用者責任による搊害賠償責任を負うとは認められない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部 裁判官 矢崎達也
以上:6,446文字
小松弁護士HPで、確認